著者:田中貴世(シニア産業カウンセラー)
新社会人の職場に対する不安要素の1つに職場の人間関係がありますが、その不安を和らげるには、支援的なコミュニケーションが欠かせません。しかし、新社会人と自分たちの世代との間にコミュニケーションギャップを感じてしまうと、どう接していけばよいのか、受け入れ側としても悩んでしまうことがあるのではないでしょうか。そこで今回は、新社会人が新しい環境で自身の能力を発揮し、期待される役割に応えていけるように支援する際に役立つ実践的なコミュニケーションスキル、NLPコミュニケーションについてお伝えいたします。
NLPとは
NLPとは、Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)の略です。1970年代にアメリカで、リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーが心理学と言語学をもとに体系化した、人間のコミュニケーションに関する新しい学問です。代表システムとは
私たちは普段、視覚、聴覚などの五感を通して、外界からの情報を取り込み、それを言語と結び付けて脳内で理解しています。この五感をNLPでは、大きく三つ、
視覚: V visual
聴覚: A auditory
体感覚: K kinesthetic
に分け、体感覚のなかに触覚・味覚・臭覚を含んでいます。
私たちは、これらの3つの感覚を使って生活していますが、人によって比較的よく使う感覚があります。それを、その人の「代表システム」と呼びます。では、この3つの代表システムの特徴について解説していきます。

視覚が優位な人
<特徴>・頭の中で絵を見たり、イメージを作りながら話をする
・物を記憶するときは絵にして覚える。表現は図やグラフといった視覚表現をする
・反面言葉で出される指示は覚えにくい傾向がある
・結果が見えないと意欲がわかない。何かを考える時に視線は上方に向きがちである
・自身は見かけを大事にするので、周囲の外見に心を動かされやすい
・話すときに、身振り手振りでの表現が活発である
・その人だけが見えている絵に従って話すので、急に話の流れが飛ぶことがある
・「私にはそう見える」とか「そんな姿が想像できる」などの言葉を使う
<声をかけるときのポイント>
・視覚的な話題から入る
・相手の話のテンポの速さに合わせる
・こちらがわからないまま話が進んでしまうと、話が進むにつれてズレが大きくなるので、分からないところは曖昧にせずに質問して明らかにしながら聞く
・将来像を描ける能力を支持し、フィードバックする
・達成感を視覚的に感じられるように表現する
聴覚優位な人
<特徴>・言葉をとても大切にし、理論的である
・話をする時に理論的に思考して分析し、自分の中で起こる内的会話(自問自答、等)を聞きながら話す
・視線は左右によく動く
・音に敏感なので、雑音があると集中が困難である
・音楽を聴くのが好きで趣味にしている傾向がある
・話している相手の声の調子や言葉に反応しやすい傾向がある
・自分のことを言ってもらうのが好きな反面、話に矛盾があることを嫌う
・言葉での記憶力に優位性がある
・「私にはこう聞こえる」「こう思う」「こう考える」などの言葉を使う
<声をかけるときのポイント>
・「言葉で聞いたことを優先する」特徴があるので、「上司が君のことをこんな言葉で表現していたよ(褒めていたよ・感心していたよ)」と言葉での表現をする
・人の話を聞くことが上手なところを具体的に認める。情報量が豊富な相手なので、こちらが聞き役に回るとミスコミュニケーションを防げる
・理論的な反面、経験していないことを想像することが苦手なので、物事の背景を説明しておくと、今すでに経験していることとの関係性を理解する助けになる
体感覚優位な人
<特徴>・自分の感覚をとても大切にしている
・視線を下方に向けて自分の感覚を確かめながら話すので、言動のスピードがゆっくりである
・感触や感じに興味を持ち、接触感覚に反応しやすい傾向がある
・居心地の良さを重視する。体験や身体感覚、体を動かすことが記憶を強化する
・声のトーンは低めで、落ち着いた話し方である
・反面早口で話されると、情報の処理が追いつかないことがある
・結果より途中のプロセスを大切にする
・「こんな感じ」「しっくりくる」「ぴったりくる」などの言葉を使う
<声をかけるときのポイント>
・自身の全体を通した「感じ」を大切にするため、話の内容を体感覚で理解する。それには時間がかかることをこちらが了解して、低めの声でゆっくり落ち着いた感じで話しかける
・コミュニケーションは苦手な人が多いので、レスポンスが悪くても普通と考えておく
・相手のこだわりの部分はできるだけ尊重する
・身体感覚で受け取っている情報に興味を持って質問してみる。「ミーティングで会議室に座っているとどんな感じ?」等
「話題」や「話す相手」によって「代表システム」は変化します。人が表現するコミュニケーションスタイルは単純ではなく、複雑です。例えば、休日のハイキングの楽しかった話を友人にする時は、きれいな風景や(視覚)風のさわやかさ(体感覚)について話す人でも、自分が体験した痛みを伴うけがの治療について上司に話すときは、主治医が言ったこと(聴覚)、治療効果といった論理的な表現を用いることがあります。さまざまなケースがありますから単純に判断することはせず、観察力を発揮することが大切です。相手が発している情報を総括的にとらえて判断し、多少こちらのアプローチを変える柔軟さを心がけてみましょう。
他者理解の一環として、このNLPの「代表システム」を知っていると、声をかける側が相手に合った言葉かけの方法を選ぶことができるのではないでしょうか。
新社会人はゴールデンウィークを過ぎた頃から、徐々に長期間の緊張からくる疲労を感じることが多くなります。その疲れを和らげるために、新社会人たちに声をかけてみてください。その時に新社会人が発している情報をキャッチするこちらのアンテナの感度を上げて、NLPの「代表システム」について意識してみて下さい。自分の「代表システム」を知った上で、新入社員の「代表システム」に合わせてこちらが表現や質問方法を意識的に変えることで、ミスコミュニケーションを防ぐことができるだけでなく、より良い人間関係構築にも役立てるのではないでしょうか。

木村佳世子著『図解NLPコミュニケーション術』秀和システム、2007年
堀井恵著『恋も仕事もあきらめない NLPで身につく5つの人間関係術』日本評論社、2008年
▼ この記事の著者

田中 貴世
シニア産業カウンセラー、日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士
子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインド・イープでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。


