著者:田中貴世(シニア産業カウンセラー)
厚生労働省は今年5月に「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム とりまとめについて」を発表しました。その中にある「今後の厚生労働省の対策 五本柱」で「職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実 〜一人一人を大切にする職場づくりを進める〜」を挙げています。また、自殺死亡率の高まりを示す実態分析を踏まえて、職場におけるメンタルヘルス対策と、うつ病等による休職者の職場復帰支援の充実が急務と判断した、とあります。
これらより、今回からは「職場復帰支援」をテーマに「休職に入る前」「休職中」「職場復帰とその後の時期」という流れについて、3回に分けて考えていきましょう。それぞれの回で、人事や労務担当者、メンタル不調者本人やその家族、主治医などがすべきことをご紹介いたします。第1回の今回は「休職に入る前」についてです。
STEP1:変化に気付く
まず、職場関係者や家族が本人の変化に気付き、心配するということが重要です。もちろん、本人がセルフモニタリングによって変化や問題を感じ、早い段階で自ら対処することでメンタル不調の予防に繋がることもありますが、「何とかしなければ」「こんなはずではない。いつもの自分なら乗り越えられる」「一時的なものだ」「周囲に迷惑はかけられない」などと考えているうちに、症状が進んでしまうことが多いのです。そこで、人事、労務担当者が、定期健康診断や過重労働面談等で心身の不調を見逃さず、職場の精神保健に対する正確な情報を認識することで、早期に取り組みをスタートすることができます。
STEP2:産業医療スタッフを活用する
不調者の現状を把握するためには、専門家である産業医療スタッフ(産業医、産業精神科医、看護職、心理職、心理相談担当者 等)の活用が有効です。 まず、不調者本人が産業医療スタッフによる面談を受けることで本人の心の整理に繋がり、また就業上の問題は何か、家族は問題を把握しているか等の現状を、人事・労務担当者が把握できます。産業医療スタッフへの相談よりも先に、心療内科などの医療機関を受診するケースも増えていますが、その状況も含めて企業の産業医療スタッフが休職前に状況を把握していることは、回復後不調者本人が職場に再適応する際、重要なポイントになることがあります。
最近は、上司などの職場関係者が、本人に代わって産業医に相談する等、医療スタッフの積極的な活用がみられます。
STEP3:専門的治療の是非を判断する
これは、産業医、産業精神科医の役割です。より適切な判断をするには正しい情報が必要です。不調者本人が職場での不利益を恐れて、正確な情報を伝えていない、上司が本人をかばって問題を開示していない、などがその後の改善や、治療に影響することもあります。
STEP4:専門医への紹介・労務管理上の問題として対応する
産業医、産業精神科医、人事・労務担当者、職場管理者の協力を得て治療しながら勤務を継続している状況では、関係者すべての役割が足並みを揃えて動いている必要があります。このとき、人事・労務担当者としては、休職などの制度について本人に説明しておくことで、本人が少し先の状況をイメージして治療への取り組みを考えることができます。
STEP5:専門的治療
本人と精神科・心療内科が治療の中心を担い、一時的に職場を離れて改善の促進を図る時期に当たります。この時期の変化を見極め、休職に入るかを判断する重要な時期です。このとき、誰が本人と職場の窓口になるのかを決めておく必要があります。1カ月単位の短期間であることが多いと思いますが、休養中の本人と定期的に連絡が取れるよう取り決めておくことが必要です。これは、休んでいた間のことが全く把握できないことが、安全配慮の観点からも好ましくないためです。また、職場復帰への希望を本人が持ち続けるためにも、状況報告という職場とのつながりが途切れないようにすることは大切です。
休職前だけでも、これだけ多くの人が関わり、それぞれにプロセスや役割があるということがわかります。事前の予防はもちろん大切ですが、こういった問題が発生したとき、どういったプロセスを辿ればスムーズに解決へと進むかは、企業側の認知度が鍵となるでしょう。
次回は、「休職期間」について考えていきたいと思います。
参考:
・厚生労働省「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム とりまとめについて」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/torimatome.html
・ 「これだけは知っておきたい〜アセスメント」 『精神科臨床サービス』2001年第1巻2号、星和書店
▼ この記事の著者

田中 貴世
シニア産業カウンセラー、日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士
子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインド・イープでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。


