著者:田中貴世(シニア産業カウンセラー)
キャリア形成支援はメンタルヘルス予防領域
従業員のキャリア形成を支援することは、メンタルヘルスケアの中でも重要な予防の領域に入ります。なぜなら、キャリアの問題は、ストレス要因の一つとして考えられるからです。
特に20代の社員は経験、知識ともに乏しいため、キャリア形成に大きなストレスを感じる方も多くいます。サッカーで例えるなら、若い選手は個々に走るスピードやパス、ドリブル能力にばらつきがあり、コミュニケーション能力やゲーム戦略の理解力にも差がある状態です。この若いチームをまとめ、個人の能力を育て活かすキャリア形成を支援し、得点力の高いチームに育てることこそ、企業の人材戦力の醍醐味ではないでしょうか。
そこで今回は、20代社員のキャリア形成支援に焦点を当てたメンタルヘルス対策について、ご紹介したいと思います。
【1】仕事への考え方とストレスの感じ方
仕事への考え方は、「こういう仕事がしたい」「こうなりたい」と明確に決まっているか、決められていないかで、ストレスの感じ方に違いがあります。
タイプ1:やりたい仕事がもう決まっている
「フランス料理のシェフを目指しているのに、皿洗いばかりさせられている感じ。皿洗いがいくら上手くなっても、メインディッシュを作るためには意味がないと思うと憂うつになる。」自分の心境をそう表現した方がいました。早急に目標の実現を求める方々は、現在の仕事が目標達成のために意味があるのか、と迷い始めると、急速にモチベーションが下がってしまうことがあります。そして、その状態が続き、自分ではどうしようもないと感じるとメンタル不調を起こしてしまいます。
タイプ2:やりたい仕事がまだ決められない
自分がどうしたいのか決められないという方々は、焦りを感じ、決めねばならないと自分を追い詰めてしまうと、自分の能力に自信をなくして自己肯定感を下げてしまいます。自分より仕事のできる周囲と比較してしまい、自分は能力がないと感じてしまうようです。そして、そのまま仕事を続けていくのが辛くなり、「もっと自分に向いている仕事があるのではないか?」と転職を考える場合もあります。
【2】ストレス軽減につながるキャリア支援
2つのタイプそれぞれのストレス軽減につながる、キャリア形成についても考えていきたいと思います。
キャリア形成には、自分が何をしたいのかという「内的視点」の他に、実際の仕事内容や職場環境を分析、把握するための「外的視点」も必要になります。
その過程で企業が社員にできる支援は、「言われたことをもくもくとやれ」という姿勢ではなく、スキル獲得に必要な情報提供と、本人の組織内での現在位置や、到達目標を示す地図の作成を支援することです。
【企業側に求められるアクション】
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タイプ1:もう決まっている派には・・・
企業が人材戦略として、個人のワークライフ設計をサポートしていることを示すことが必要です。キャリアは自己決定だけでなく、企業との良好な相互依存関係があって成り立つことに気づけば、現在の仕事の意義を想像することができるでしょう。
組織内で今の仕事の意義を知る情報提供があれば、自分でキャリア地図を描き、多彩なルートの中から目標に到達する道を選んでいるという納得感を持つことができて、精神的な健康状態を安定させます。
タイプ2:まだ決められない派には・・・
個人の能力の客観的な現状把握と評価が有効になります。自分の能力を低く査定している傾向があるので、まず現在の能力評価を相対評価ではなく、絶対評価で示し肯定的なメッセージを伝えます。これといったものが決まっていないということは、選択の幅が広いことでもあります。これから見えてくるキャリアの方向性のために、個人の能力の中から比較的自然に発揮できているものを中心に、キャリアアップできる能力を一つではなく数種類見つけていきます。
始めから自分に完璧を求め、周囲からも完璧を求められている、との思いで自分を追い詰めているタイプには、職場での有用感、小さな成功体験が精神的安定をもたらし、キャリアアップの意欲につながります。
今後、企業が人事体制を構築していく上では、メンタルヘルスケアを意識したキャリア支援制度が、迅速に進められていくことを期待しています。
参考:
読売新聞、2010年4月20日(朝刊)「うつ病健診でチェック」
読売新聞、2010年5月10日(朝刊)医療ルネッサンス 「うつ病を見直す(5)」
労働行政研究所、2007年9月10日「社員モチベーションアップの新施策」
▼ この記事の著者

田中 貴世
シニア産業カウンセラー、日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士
子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインド・イープでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。


