これまで23回の連載を通して、様々なメンタルヘルス施策について考えてきました。 今回はこの連載を担当させていただく最終回に寄せて、メンタルヘルス施策3つの意義の振り返りと、それら予防医学の段階を超えた、メンタルヘルス施策の第4の可能性について取り上げたいと思います。
■事業場におけるメンタルヘルスケアの3つの意義
心の健康は本来、労働者自身がストレスに気づき対処するセルフケア能力の向上を基本に考えられています。しかし実際の職場には、個人では対処できないストレス要因も多く存在します。そこで企業として組織的取り組みや事業場外資源の積極的活用、自殺防止などの行政による支援、つまり「メンタルヘルスケア」が必要になってくるのです。 事業場におけるメンタルヘルスケアには以下の3つの意義があると考えられます。●労働者の健康の保持、増進
●リスクマネージメント
*企業活力、業績の低下防止
*長期休業者が事業場にもたらすマイナス要因の軽減
*管理職のマネージメント負担の軽減
*民事訴訟等、損害賠償リスクの回避
*労働者の自殺防止、ミスや事故の発生の予防
●労働者生活の質の向上と事業場の生産性の向上
*労働者の健康で質の高い生活を送る権利の保全
*事業場の活力や生産性の向上の促進
今回取り上げる第4の扉は、3つ目の意義の中にあります。メンタルヘルスケアを「疾病と治療」という狭い枠の中でとらえるのではなく、健康度をより高める視点から見るものです。
■第4の扉:モチベーション・マネージメント
以下のような相談でカウンセリングを受けに来談される方がいます。
・職場で示しているパフォーマンスを向上させたい。
・ストレス耐性を高め、モチベーション高く仕事に取り組みたい。
・よりポジティブに効率よく仕事を進めたい。
・コミュニケーション力を高めたい。
・スピーチやプレゼンテーションの場で緊張してしまうので、あがり症を改善したい。
これこそが、「働き方の質と職場の生産性向上」につながるメンタルヘルス施策の“第4の可能性”です。
健康度の高い労働者がより健康に、より高いパフォーマンスを求めて、メンタルヘルス施策を活用する。事業場がメンタルヘルスを考えるときに、ぜひ盛り込んでいただきたい視点です。
ここで、モチベーション・マネージメントを実践された方の事例をご紹介します。
■6年ぶりに来談したKさん
先日、ノートを持参してカウンセリングルームにやってきたKさんは、以前と変わらぬ物腰の中に落ち着きと自信をのぞかせていました。当時20代後半だったKさんが、カウンセリングの中で取り組んでいたのは、ご自身のスキルの棚卸とキャリアプラン作成でした。失敗のエピソードから学ぶものを探し、対人関係の癖に気づき、価値基準や優先順位の再検をした目標設定。日々の問題に取り組みながら、将来の方向性を模索していました。その時作成したのが、5年後の自分の姿を想像し、1年ごとにマイルストーンを置いた人生地図でした。ルームのソファーに座ったKさんは、懐かしそうにその地図が描かれたノートをめくりました。 「先日、このノートの存在を思い出して開いてみたら、書いたことがすべて実現していた。
また次の5年について話し合いたく予約を入れた」とのことでした。5年間の努力をねぎらい、どうやって実現したのか、Kさんの持ち味はどう活かされたか、前進の推進力はなにか、手に入ったものは何か、今後会社のどんな期待に応え、何をやりたいのか。カウンセリングの時間は瞬く間に過ぎました。そしてKさんは次の5年間に向けてルームの扉を出て行かれたのでした。
(※この事例は個人情報に配慮し、特長的なケースをブレンドして掲載しています。)
Kさんは、働き方の質と職場の生産性向上に、企業のメンタルヘルス施策を活用したお一人です。あれから6年。当時珍しかったKさんのようなカウンセリングの活用方法も増えてきました。企業研修の内容も単純なメンタルヘルス対策だけでなく、「メンタルアップ」「ポジティブ・ステージ」「メンタルタフネス」「ブリーフ・コーチング」など、よりパフォーマンスを高める研修が増えました。 メンタルヘルス施策第4の扉は、これから益々職場の活性化や、労働者の効率的なパフォーマンスに様々なつながり方をしていくことでしょう。
▼ この記事の著者

田中 貴世
シニア産業カウンセラー、日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士
子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインド・イープでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。


