著者:渋谷英雄(ピースマインド・イープ株式会社臨床担当取締役、臨床心理士)
〜このコラムは中央労働災害防止協会・発行の『心とからだのオアシス』に連載中の連載記事から一部改編したものです〜はじめに
最近、人事担当者を悩ませているのが、社内うつとも呼ばれる若年層(20〜30代)に増加しているメンタル不調です。「仕事に関わるときは不調となり、日常生活や趣味などに関わるときは比較的元気である」など、従来型に当てはまらないうつ病といわれています。傾向としては本人が不調であることをオープンに語り、その要因を自責でなく他責的な傾向でとらえることがあります。現場からは、「元気そうなのに、なぜ休みが必要なのか」「怠けているのではないか」という声も聞こえ、人事担当者としては対応に苦慮する例も少なくありません。特に従来型のうつ対処のように、休息と投薬のみでは回復に向かいにくく、対応が見いだしにくいのが現状です。 そして、なによりも詐病の(いわゆる仮病)ようにとらえられ当惑するのは、当事者自身です。臨床の現場からみると、仕事に関わる間や前後には、典型的なうつ状態に陥って、不眠やさまざまな症状を併発する場合も多く、心身ともにつらい状態であることは間違いありません。ましてや職場を離れている期間は活動力があるだけに、突発的な行動化(自傷や自殺)も視野に入れる必要があり、決して安心できる状態とは言えないのが実情です。
Q&A
Q若年層に多い、新しいタイプのうつ病の原因を教えて下さい。不調となる人の中には優秀な人材も多く、組織に要因があるのであれば、改善策を講じていく必要があると考えています。
A
原因については現在のところさまざまな背景が考えられています。例えば、?挫折や理不尽な状況に遭遇した体験に乏しく、努力や頑張りだけで成功するとは限らない社会人の世界に入り、その現実に耐えられず不調となる、?周囲から賞賛され続けることを当然と思い、さらには自分らしさを重視するあまりに、理想と現実のギャップに折り合いがつかずに自信を失い不調となる、?同世代間のコミュニケーションでの理不尽な体験が少なく、理屈で理解できない世界観への耐性がないため不調となる、などです。
いずれにしても明確な原因は解明されていません。対策としては、?新入社員教育時に会社生活と理想とのギャップについて共有できる場を提供する、?可能な限り理屈で理解し得るオープンな組織体となるよう体制を整備する、?不調者を組織内で抱え込むのではなく専門家(カウンセラーなど)にゆだねる、などが有効なようです。特に?の新入社員教育時にメンタルヘルス教育を織り込むことは、症状発生時の軽症化に寄与するだけでなく、社員のストレス耐性づくりにもつながると考えられます。
Q
実際、新しいタイプのうつ人の窓口となった人事担当者や管理監督者の中には、日々の対応に疲弊している場合も少なくありません。適切に接するためのポイントを教えて下さい。
A
うつ病はこころのエネルギーが枯渇し、本人の過去にあった葛藤が再燃しやすい状態です(図)。通常なら忘却するような古い出来事に憤りを覚えたりします。その憤りが自分に向かえば従来型のうつ、周囲に向かうのが新しい型のうつと言えます。新しい型の場合は、ときに支援する人をも責めてしまう場合もあり、結果、対人関係が悪化し、職場でのコミュニケーション上のトラブルが目立つことが少なくありません。職場では問題視され居場所を失い、さらにメンタル不調を助長してしまう悪循環になりがちです。 そこで気をつける点は、?適度な距離感を保つ、?できることとできないことを明確に示す、?社内ルールを示し議論や討論を控える、?家族間の葛藤など仕事以外の悩みに深入りしない、などがあります。特に、支援する人が本人の訴えすべてを解決しようと奮闘するほど、内容が複雑化して混沌状態に入り込む場合があるからです。あくまでも業務上可能な範囲で助力し、ほかは専門家(カウンセラーなど)に任せることが肝要です。
さいごに
カウンセリングでの基本的な対応は、本人の葛藤を受けとめつつも、認知行動療法などの現実的なアプローチに沿って本人自身による回復を促していきます。 新しいタイプのうつ支援は、本人努力と企業努力を経て、本人がほどよい社会適合を目指せることに成功の鍵が隠されていると言ってもよいと思います。企業のスタンスとしては、契約社会の中で公私を明確に分け、あくまでも本人のパフォーマンス回復を目標に助力していくことが、結果として大きな本人支援になると考えて良いと言えます。参考文献:「現在の精神医学診断体系におけるうつ病の位置づけ:今一度、うつ病とは何かを考える」尾崎紀夫、産業精神保健15(4):205-210,2007
「薬物療法を補完する小精神療法と社会復帰療法」笠原嘉、精神科治療学17(増補)79-84,2004
(出典:渋谷英雄「メンタルヘルスQ&A vol.7 新しいタイプのうつ病」(「心とからだのオアシス」第2巻第3号(通算7号)、2008(平成20)年秋号、p. 22-23を一部改編)
▼ この記事の著者

渋谷 英雄
ピースマインド・イープ株式会社臨床担当取締役、臨床心理士
航空会社にてマネジメント経験を重ねた後に、東洋大学大学院、東京大学大学院を経て臨床心理士。現在は企業内外での臨床にたずさわっている。日本オンラインカウンセリング協会理事長。


