著者:下村 洋一(医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント)
定期健康診断の目的は、病気の予防・早期発見だと誤った認識を持つ社員、医療関係者、健診機関が多いのが現状です。これは、健康管理を進める上で大きな問題になります。仕事によって病気が発症しないよう、就業区分決定の資料作ること、つまり、労災の予防が定期健康診断の一番大事な目的です。再検査、精密検査を確実に実施して、就業区分の決定ができなければ、健康診断は終わったことになりません。身体検査で終わっている会社が大変多いのではないでしょうか。健康診断の結果を仕事に生かすという発想が大事です。労働安全衛生法は安全に厳しく、衛生に甘い法律です。衛生の部分で罰則規定があるのは、健康診断の実施義務だけです。産業医・衛生管理者がいないのも問題ですが、健康診断を実施しないということは重大な違法行為で、労災等が発生したとき厳しく処罰されます。企業の健康管理の基本は定期健康診断を確実に実施して、その事後フォローをしっかり行うことです。健康診断の結果報告書は、必ず基準局に期限までに提出してください。

血圧の測定
血圧とは心臓から送り出された血液が、血管に与える圧力のことです。 心臓が収縮して血液を全身に送り出したときの圧力を、最大血圧(収縮期血圧)といいます。一方、心臓が拡張して血液を吸い込んだときの圧力を、最小血圧(拡張期血圧)といいます。収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上の場合には、高血圧と判定されます。 血圧の高い状態が続けば脳卒中、心臓病、腎臓病などにかかりやすくなります。血圧を高くしないためには、塩分を控え、ストレス、肥満、過労などに注意が必要です。低血圧は自覚症状がなければ支障ありませんが、規則正しい日常生活が望まれます。
肝機能検査(GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP)
肝臓はたくさんの複雑な働きをしているため、その機能を調べるためには、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断することが必要です。 GOT(AST)、GPT(ALT)の増加は、肝炎、肝硬変、脂肪肝などの肝臓の組織に障害を意味し、100U/Lを超える異常は活動性肝炎のことも多く治療が必要です。γ-GTPは主に腎臓、膵臓、肝臓などの上皮細胞に含まれる酵素で、その増加は上記疾患以外に胆石などの胆道疾患やアルコール常飲者に見られます。節酒、休肝日の設定が必要です。肝機能低下の主な原因としては、以下のものが多いようです。
(1)ウイルス性肝炎: 肝炎をおこすウイルスとして、A・B・C・D・E型などがあります。
(2)アルコール性肝炎: 長年アルコールを多量に飲み続けることによっておこります。断酒することで症状は改善しますが、そのまま飲み続けるとアルコール性の肝硬変に至ることもあります。
(3)脂肪肝: 肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積されておこるもので、酒をよく飲む人、肥満の人にみられます。断酒、減量などで改善します。
尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
尿には通常蛋白は出てきませんが、腎臓に障害が起こると、尿中に蛋白質が漏れ出てしまいます。尿蛋白陽性は、腎臓病発見の手がかりとなります。なお、激しい運動や入浴後、精神的な興奮やストレス、寒さ・暑さ、女性は生理前後などにも陽性(+)反応が出る場合があります。尿蛋白検査だけでは腎臓の病気を判断することはできませんので、陽性になったら詳しい検査が必要となります。尿糖検査は糖尿病発見の手がかりとなります。糖尿病で血糖値が高くなると尿に糖が出るようになります。ただし、食後や激しい運動の後やストレスなどでも一次的に陽性になる場合があります。また、腎性尿糖といって血糖値が高くないのに尿糖が陽性になる場合や、それとは逆に、血糖値が高くても尿糖が陰性になる場合などもありますので、尿糖の結果だけで糖尿病について自己判断するのは非常に危険です。尿糖が陽性の場合は血糖検査を行う必要があります。▼ この記事の著者

下村 洋一
医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント
日本大学医学部卒業後、駿河台日本大学病院内科に勤務。東京都がん検診センター消化器科での勤務を経て、銀座菊池病院、京王電鉄診療所と内科医長を歴任。その後、京王電鉄グループ専属産業医となる。1997年には京王百貨店診療所所長を務め、2000年に労働衛生コンサルタント事務所を開業。現在では、大手企業や中小企業の嘱託産業医を多数務める。


