著者:下村 洋一(医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント)
皆さん、メンタルヘルス対策は難しいと誤解していないでしょうか?私の産業医活動18年間の相談を振り返ると、次のような相談の繰り返しでした。
- 上司に怒鳴られてうつ病になって、休職した
- うつ病で休職中の社員が休職満了直前に、復職したいと診断書を持ってきた。
- 残業が続いた社員が、突然失踪した。
- 遅刻・欠勤が多くなった社員を病院に連れていきたい。
こうした相談に対する考え方としては、基本に立ち戻ることです。
つまり、【労災の予防】や【中途半端な就労の解消】をいかに行うか、この2つの答えを探し当てることができれば、多くの問題は解決できるのです。しかし精神科医と同じ立場から問題を解決しようと考えても、これらを解消することはできません。専門医の視点よりも、労務の視線が、職場のメンタルヘルスには大切です。
人事労務担当者の仕事は、精神障害の治療でなく、体調に応じた仕事を臨機応援に割り振り、仕事が精神障害の原因にならないような労務管理を行うということなのです。
メンタルヘルスの基礎知識
メンタルヘルスだから、と言って難しい医療や心理学の勉強をしたり、カウンセリング技術を身につける必要ありません。初歩的な精神障害・精神医療・産業保健の仕組みを理解して、それを労務管理に生かせばいいのです。ただし、うつ病に関する基本的な知識は押さえておく必要があるでしょう。なぜなら働く人のメンタル不調の大半がうつ類似疾患だからです。現在、うつ病に関する解説本が多数出版されています。簡単なもので十分ですので、ぜひご一読ください。
メンタルヘルスの実務では、【規則に従い、誠意を持って対応する】ことがとても大事です。中途半端な就労を解消するためには、【病気の治癒】【休職、退職】この2つの方法しかありません。
働く人は雇用契約・就業規則・労働協約・労働基準法4つのルールで仕事をしています。皆さんのお悩みの答えは、この規則に中にあるのです。労務管理の基本的な知識を再確認してください。そしてメンタル不調に対応できる就業規則を整備してください。
困ったらどうする
メンタルヘルス対策を進める上で、会社・主治医・産業医・家族・EAP機関・カウンセラーが連携し、自分の持ち場をわきまえて社員をサポートすることが大切です。治療の主体と責任は本人と家族にあり、会社や産業医はそれを応援する立場にあります。治療に介入することは、善意であっても慎む必要があります。主治医も、会社は病気の治療をする所ではないという認識を持つべきです。 メンタルヘルス対策で起こるトラブルの多くは、これら応援団の仲間割れや、サポーター自身がストレッサーになることによって起きるものです。困ったときには、図のようなイメージに立ち返り、解決策を探してください。
最後に
メンタルヘルスへの取り組みは、必ず感謝されるとは限らないし、苦労が多い仕事です。日々の問題に直面して、ストレスが溜まっている方も多いと思います。担当者が暗い顔をしていたら、会社がうつになってしまいます。明るく、楽しく、明確にやりたいものですね。頑張ってください。▼ この記事の著者

下村 洋一
医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント
日本大学医学部卒業後、駿河台日本大学病院内科に勤務。東京都がん検診センター消化器科での勤務を経て、銀座菊池病院、京王電鉄診療所と内科医長を歴任。その後、京王電鉄グループ専属産業医となる。1997年には京王百貨店診療所所長を務め、2000年に労働衛生コンサルタント事務所を開業。現在では、大手企業や中小企業の嘱託産業医を多数務める。


